横浜地方裁判所 昭和60年(わ)2365号・昭60年(わ)3926号・昭61年(わ)874号・昭61年(わ)883号 判決
右の者に対する相続税法違反、所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官寺西賢二出席のうえ審理をし、次のとおり判決をする。
主文
被告人を懲役一年に処する。
未決勾留日数中八〇日を右刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、
第一(塚越治義関係)
小島葵、庄司孝英、新開一史、塚越治義と共謀のうえ、右塚越治義の実父塚越正治の死亡により同人の財産を相続した塚越治義の相続税について、架空保証書等を計上して課税価格を減少させる方法により、また、右塚越治義が昭和五八年中に所有地を売却したことによる同人の同年分の長期譲渡所得税について、架空保証債務を計上する方法により、それぞれ右相続税及び所得税を免れようと企て、
一 昭和五八年五月二〇日、神奈川県藤沢市朝日町一番地の一一所在の所轄藤沢税務署において、同税務署長に対し、被相続人塚越正治の死亡により同人の財産を相続した右塚越治義の正規の相続税課税価格は四億一九二〇万九〇〇〇円であったのにかかわらず、被相続人塚越正治には、庄司孝英に対する四億円の保証債務があり、これを右塚越治義において負担することが確定したので、取得財産の価額からこれを控除すると同人の相続税課税価格は四二三九万八〇〇〇円で、遺産にかかる基礎控除額を控除すると納付すべき相続税はない旨の虚儀の相続税申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同人の正規の相続税額一億七二二万二九〇〇円の全額を免れ、
二 右塚越治義に架空の手形保証債務を計上するとともに、同人において、昭和五八年中に右債務を履行するため同人所有の土地を譲渡し、その履行に伴う求償権の全部を行使することができなくなったかのように仮装するなどの不正な方法により所得を秘匿したうえ、昭和五八年分の同人の実際総所得金額が四七四万七〇六七円、分離課税による長期譲渡所得金額が八三八六万一三三五円であったのにかかわらず、昭和五九年三月一三日、前記の所轄藤沢税務署において、同税務署長に対し、同人の総所得金額が四七四万七〇六七円で、これに対する所得税額は所得控除をして算出すると三九万五四〇〇円であり、分離課税による長期譲渡所得金額は、所得税法六四条二項の規定によって零となり、これに対する所得税額はない旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同人の昭和五八年分の正規の所得税額二一五四万二一〇〇円と右申告税額との差額二一一四万六七〇〇円を免れ、
第二(矢部一夫関係)
小島葵、庄司孝英、新開一史、塚越治義、矢部一夫と共謀のうえ、右矢部一夫の実父矢部勝由の死亡により同人の財産を相続した矢部一夫の相続税について、架空保証債務を計上して課税価格を減少させる方法により、また、右矢部一夫が昭和五八年中に所有地を売却したことによる同人の同年分の長期譲渡所得税について、架空保証債務を計上する方法により、それぞれ右相続税及び所得税を免れようと企て、
一 昭和五八年九月二二日、同市朝日町一番地の一一所在の所轄藤沢税務署において、同税務署長に対し、被相続人矢部勝由の死亡により同人の財産を相続した相続人全員分の正規の相続税課税価格は三億二五四五万五〇〇〇円で、このうち右矢部一夫の正規の課税価格は二億三七五七万四〇〇〇円であったのにかかわらず、被相続人矢部勝由には庄司孝英に対する二億九八〇〇万円の保証債務があり、そのうち二億八八〇二万九一五一円を右矢部一夫において負担することが確定したので、取得財産の価額からこれを控除すると同人の相続税課税価格は零で、納付すべき相続税額はない旨の虚偽の相続税申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同人の正規の相続税額六五七七万六三〇〇円の全額を免れ、
二 右矢部一夫に架空の連帯保証債務を計上するとともに、同人において、昭和五八年中に右債務を履行するため同人所有の土地を譲渡し、その履行に伴う求償権の全部を行使することができなくなったかのように仮装するなどの不正な方法により所得を秘匿したうえ、昭和五八年分の同人の実際総所得金額が四八二万四二五九円、分離課税による長期譲渡所得金額が二億一六四五万一八〇〇円であったのにかかわらず、昭和五九年三月一三日、前記の所轄藤沢税務署において、同税務署長に対し、右矢部一夫の総所得金額が六八二万五四八四円で、これに対する所得税額は所得控除をして算出すると八九万六四〇〇円であり、分離課税による長期譲渡所得金額は、所得税法六四条二項の規定によって零となり、これに対する所得税額はない旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同人の昭和五八年分の正規の所得税額六八六〇万二八〇〇円と右申告税額との差額六七七〇万六四〇〇円を免れ、
第三(井山正一関係)
小島葵、庄司孝英、新開一史、二宮啓、金田こと金義信、井山健一、井山一男、井山正一と共謀のうえ、井山正一が相続税申告の代理人をしていた、井山の死亡により同人の財産を相続した井山ハル、井山和栄、井山剛之の各相続税について、架空保証債務を計上して課税価格を減少させる方法により、相続税を免れようと企て、昭和五九年四月二日、埼玉県浦和市常盤四丁目一一番一九号所在の所轄浦和税務署において、同税務署長に対し、被相続人井山の死亡により同人の財産を相続した右井山ハル、井山和栄、井山剛之の正規の相続税課税価格は別表(一)の「正規の相続税課税価格」欄記載のとおり合計六億六一五八万四〇〇〇円であったのにかかわらず、被相続人井山には宍戸三男に対する四億八〇〇〇万円の保証債務があり、これを右井山ハル、井山和栄、井山剛之において右別表「保証債務額」欄記載のとおり、それぞれ負担することが確定したので、それぞれの取得財産の価額からこれを控除すると右井山ハル、井山和栄、井山剛之の相続税課税価格は右別表「申告相続税課税価格」欄記載のとおり合計一億八三七五万八〇〇〇円で、それぞれ遺産にかかる基礎控除額を控除して算出すると右井山ハル、井山和栄、井山剛之の相続税額は右別表「申告相続税額」欄記載のとおり合計五四一五万九六〇〇円である旨の虚偽の相続税申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、右別表「正規の相続税額」欄記載のとおり右井山ハル、井山和栄、井山剛之の正規の相続税額合計二億六〇七七万七一〇〇円と右申告税額合計との差額二億六六一万七五〇〇円を免れ、
第四(福田一雄・まき子関係)
小島葵、二宮啓、福田一雄、福田まき子と共謀のうえ、福田一雄の実父で、かつ福田まき子の養父である福田精一の死亡により同人の財産を相続した福田一雄、福田まき子の各相続税について、架空債務を計上して課税価格を減少させる方法により、相続税を免れようと企て、昭和六〇年五月二二日、東京都足立区栗原三丁目一〇番六号所在の所轄新井税務署において、同税務署長に対し、被相続人福田精一の死亡により同人の財産を相続した右福田一雄、福田まき子の正規の相続税課税価格は別表(二)の「正規の相続税課税価格」欄記載のとおり合計八億九八五五万九〇〇〇円であったのにかかわらず、右福田精一には川野栄子に対する四億五五〇〇万円の債務があり、これを福田一雄、福田まき子において右別表が「債務額」欄記載のとおり、それぞれ負担することが確定したので、それぞれの取得財産の価額からこれを控除すると福田一雄、福田まき子の相続税課税価格は右別表「申告相続税課税価格」欄記載のとおり、合計四億五〇三八万七〇〇〇円でそれぞれ遺産にかかる基礎控除額を控除して算出すると福田一雄、福田まき子の相続税額は右別表「申告相続税額」欄記載のとおり、合計一億八五二二万二〇〇〇円である旨の虚偽の相続税申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、右別表「正規の相続税額」欄記載のとおり福田一雄福田まき子の正規の相続税額合計四億七五九六万六八〇〇円と右申告税額合計との差額二億九〇七四万四八〇〇円を免れ、
第五(矢部重雄関係)
小島葵、二宮啓、矢部重雄と共謀のうえ、右矢部重雄の実父矢部和太郎の死亡により同人の財産を相続した矢部重雄の相続税について、架空債務を計上して課税価格を減少させる等の方法により、相続税を免れようと企て、昭和六〇年六月二〇日、東京都葛飾区立石六丁目一番三号所在の所轄葛飾税務署において、同税務署長に対し、矢部重雄の正規の相続税課税価格は一一億三四七七万七〇〇〇円で相続人全員の正規の相続税課税価格総額に占める割合は約〇・七であったのにかかわらず、右矢部和太郎には甘利宇洲根に対する三億円の債務があり、これを矢部重雄において全額負担することが確定したので、取得財産の価額からこれを控除すると矢部重雄の相続税課税価格は五億一五〇一万一〇〇〇円で、相続人全員の相続税課税価格総額に占める割合は約〇・三九にすぎず、遺産にかかる基礎控除額を控除して算出すると矢部重雄の相続税額は三億三六六万八八〇〇円である旨の虚偽の相続税申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、矢部重雄の正規の相続税額六億九六九九万七三〇〇円と右申告税額との差額三億九三三二万八五〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示第一の一、二及び第二の一、二の各事実について
一 公判調書中被告人(第一回、第二四回)の供述部分
一 被告人の検察官(昭和六〇年八月一五日付)に対する供述調書
一 公判調書中の分離前の共同被告人小島葵(第一回、第二四回)、庄司孝英(第一回、第二二回、第二四回)、新開一史(第一回)、塚越治義(第一回、第二八回、第三〇回)の各供述部分
一 小島葵(同年八月一九日付)、庄司孝英(同年八月一九日付)、新開一史(同年八月九日付)の検察官に対する各供述調査
判示第一の一、二の各事実について
一 被告人の検察官(同年八月一一日付二七枚綴りのもの)に対する供述調書
一 塚越治義の検察官(同年八月八日付、同月九日付、同月一五日付二通)に対する各供述調書
一 遠藤守の検察官に対する供述調書
一 大蔵事務官作成の領置てん末書(犯則嫌疑者塚越治義のもの)
判示第一の一の事実について
一 被告人の検察官(同年八月九日付、八月一〇日付、八月一一日付二〇枚綴りのもの)に対する各供述調書
一 小島葵(同年八月九日付、同月一三日付六枚綴りのもの)、庄司孝英(同年八月九日付、八月一〇日付)、新開一史(同年八月一〇日付、同月一一日付二通)、塚越治義(同年八月一〇日付)の検察官に対する各供述調書
一 塚越正義、中西光枝、塚越幸平、浅場町子、高橋百合子、塚越通、宮﨑礼子、矢部マツ子(同年八月一四日付)、塚越ミエ子、塚越伸子、磯崎一良、松原義貫、矢部一夫(同年八月一三日付一四枚綴りのもの)の検察官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成(塚越治義の相続税に関するもの)の保証債務調査書、土地家屋調査書、代償分割調査書、借入金調査書、預貯金調査書、出資金調査書、公租公課調査書
一 押収してある相続税の申告書一袋(昭和六〇年押第七二六号の二)
判示第一の二の事実について
一 被告人の検察官(同年八月一三日付)に対する供述調書
一 小島葵(同年八月一三日付一九枚綴りのもの・同意部分のみ)、庄司孝英(同年八月一二日付・同意部分のみ、同月一七日付)、新開一史(同年八月一二日付二五枚綴りのもの)、塚越治義(同年八月一三日付、同月一七日付四枚綴りのもの)の検察官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成(塚越治義の所得税に関するもの)の求償額の行使不能額調査書、特別控除額調査書、不動産収入調査書、租税公課調査書、減価償却費調査書、申告経費調査書
一 押収してある五八年分の所得税の確定申告書一袋(同号の一)
判示第二の一、二の各事実について
一 公判調書中の分離前の共同被告人矢部一夫(第一回、第二七回、第二八回)の供述部分
一 塚越治義(同年八月一七日付五枚綴りのもの)、矢部一夫(同年八月一〇日付、同月一五日付二通、同月一九日付二通)の検察官に対する各供述調書
一 矢部マツ子の検察官(同年八月一七日付)に対する供述調書
一 大蔵事務官作成の領置てん末書(犯則嫌疑者矢部一夫のもの)
判示第二の一の事実について
一 被告人の検察官(同年八月一二日付)に対する供述調書
一 小島葵(同年八月一一日付、八月一三日付六枚綴りのもの)、庄司孝英(同年八月一一日付)、新開一史(同年八月一二日付五九枚綴りのもの)、塚越治義(同年八月一二日付)、矢部一夫(同年八月一二日付)の検察官に対する各供述調書
一 松原義貫、矢部慶三(二通)、矢地トキ子、西山セツ子、矢部光男、矢部勤、矢部恒夫の検察官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成(矢部一夫の相続税に関するもの)の保証債務調査書、土地家屋調査書、公租公課調査書、貸家預り金調査書、現金調査書、預貯金調査書、長期前払保険料調査書
一 押収してある相続税の申告書一袋(同号の四)
判示第二の二の事実について
一 被告人の検察官(同年八月一三日付)に対する供述調書
一 小島葵(同年八月一三日付一九枚綴りのもの・同意部分のみ)、庄司孝英(同年八月一二日付・同意部分のみ、同月一七日付)、新開一史(同年八月一二日付二五枚綴りのもの)、塚越治義(同年八月一三日付)、矢部一夫(同年八月一三日付七八枚綴りのもの)の検察官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成(矢部一夫の所得税に関するもの)の譲渡費用調査書、求償権の行使不能額調査書、特別控除額調査書、不動産収入調査書、固定資産税調査書、損害保険料調査書、修繕費調査書、減価償却費調査書、雑費調査書、申告経費調査書、給付補填備金調査書
一 押収してある五八年分の所得税の確定申告書一袋(同号の三)
判示第三の事実について
一 公判調書中の被告人(第四回)の供述部分
一 被告人の検察官(昭和六〇年一二月一二日付)に対する供述調書
一 公判調書中の分離前の共同被告人小島葵(第四回)、庄司孝英(第四回)、新開一史(第四回)、金義信(第四回)、二宮啓(第四回、第三四回)、井山健一(第四回)、井山一男(第四回)、井山正一(第四回)の各供述部分
一 小島葵(同年一二月二日付、同月九日付二通)、庄司孝英(同年一二月一一日付、同月一四日付、同月一七日付、同月二一日付)、新開一史(同年一二月一一日付、同月一二日付)、金義信(同年一二月六日付、同月二一日付)、二宮啓(同年一二月六日付、同月二〇日付二七枚綴りのもの)、井山健一(四通)、井山一男(五通)、井山正一(七通)の検察官に対する各供述調書
一 井山和栄の検察官に対する供述調書
一 井山和栄、井山ハル、井山剛之、近藤、安西ケイの大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 大蔵事務官作成(井山和栄らの相続税に関するもの)の保証債務調査書、有価証券調査書、未収地代調査書、土地調査書、公租公課調査書
一 大蔵事務官作成の領置てん末書(犯則嫌疑者井山和栄のもの)
一 押収してある相続税の申告書綴一綴(同号の五)、相続税の申告関係書綴一綴(同号の六)、遺産分割協議書・領収証綴一綴(同号の七)
判示第四の事実について
一 公判調書中の被告人(第七回)の供述部分
一 被告人の検察官(同年一二月一六日付九枚綴りのもの)に対する供述調書
一 公判調書中の分離前の共同被告人小島葵、二宮啓、福田一雄、福田まき子(以上いずれも第七回)の各供述部分
一 小島葵(同年一二月一五日付二三枚綴りのもの)、二宮啓(昭和六一年二月二一日付三六枚綴りのもの、同日付三枚綴りのもの)、福田一雄、福田まき子の検察官に対する各供述調書
一 福田一雄の大蔵事務官に対する質問てん末書
一 国武昇、福島修一(謄本)、清水俊彦(謄本)の検察官に対する各供述調書
一 山崎恭子、大盛英信、萩原一善、川野栄子の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 東京都足立区長作成の戸籍謄本(福田精一の戸籍)
一 大蔵事務官作成の領置てん末書(犯則嫌疑者福田一雄のもの)
一 大蔵事務官作成(福田一雄らの相続税に関するもの)の借入金調査書、未払金調査書、未払利息調査書、預り敷金調査書、土地調査書、家屋調査書、現金調査書、普通預金調査書、定期預金調査書、出資金調査書、家庭用財産調査書、その他の財産調査書、代償分割(未払金)調査書、代償分割(未納金)調査書、公租公課調査書、葬式費用調査書
一 押収してある相続税の申告書綴二綴(同号の一一、一二)、相続税の申告書控(同号の一三)
判示第五の事実について
一 公判調書中の被告人(第七回)の供述部分
一 被告人の検察官(昭和六〇年一二月一六日付二九枚綴りのもの、昭和六一年三月六日付)に対する各供述調書
一 公判調書中の分離前の共同被告人小島葵、二宮啓、矢部重雄(以上いずれも第七回)の各供述部分
一 小島葵(昭和六〇年一二月一五日付三六枚綴りのもの、昭和六一年二月一九日付、同年三月六日付二通)、二宮啓(同年二月二一日付三一枚綴りのもの、同年三月七日付)、矢部重雄の検察官に対する各供述調書
一 矢部重雄の大蔵事務官に対する質問てん末書
一 矢部文雄、清水俊彦、福島修一の検察官に対する各供述調書
一 矢部ちよ(二通)、鈴木靜子、佐藤邦郎(二通)、岩城守一(二通)の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 東京都葛飾区長作成の戸籍謄本(矢部和太郎の戸籍)
一 大蔵事務官作成(矢部重雄の相続税に関するもの)の土地調査書(二通)、建物調査書、預貯金調査書、出資金調査書、建物更生共済積立金調査書、未払金調査書(二通)、預り金調査書、租税公課調査書
一 大蔵事務官作成の領置てん末書(犯則嫌疑者矢部重雄のもの)
一 押収してある相続税の申告書控一綴(同号の一四)、相続税の申告書綴一綴(同号の一五)、遺産分割協議書写一冊(同号の一六)、預金通帳一冊(同号の一七)
(法令の適用)
被告人の判示第一の一、第二の一、第三、第四、第五の各所為はいずれも刑法六五条一項、六〇条、相続税法六八条一項(判示第三の所為についてさらに同法七一条一項)に、判示第一の二、第二の二の各所為はいずれも刑法六五条一項、六〇条、所得法二三八条一項にそれぞれ該当するので、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、犯情の最も重い判示第五の罪の刑に法定の加重をし、その刑期の範囲内で、被告人を懲役一年に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中八〇日を右刑に算入することとする。
(量刑の理由)
本件は、小島葵が中心となって行った巨額の脱税請負事件に税理士の被告人が関与したものであるが、その脱税請負は合計七件、逋脱額にして一一億五二五四万円余にのぼり、逋脱率は最高一〇〇パーセント、平均六八パーセントであって、非常に規模の大きい脱税事犯である。相続税については相続税法一三条(債務控除に関する規定)を、所得税については所得税法六四条二項(保証債務履行のため資産を譲渡した場合の求償権行使不能額の控除の規定)をそれぞれ悪用したものであるところ、被告人は、脱税のための申告書の作成を担当したほか、関係書類の偽造にも関与したものである。本件犯行においては、税理士の資格を持っていた被告人が極めて重要な役割を担っていたというべきである。被告人は税理士として誠実にその業務を遂行すべき業務を負っていたにもかかわらず、本件のような犯行に加担したことについては、厳しい非難を受けなければならない。しかも、岡山において、同種の事件(納税に関し、納税者から金員を詐取したもの)で逮捕勾留の後、起訴され、税理士会から脱退したが、保釈後、再び小島らとともに本件第四、第五の犯行にも関与しているのであって、税務に携わってきた者の自覚はないに等しいといっても過言ではない。以上の諸点を考えれば被告人の刑事責任は重大である。
しかしながら、被告人の関与が従属的なものであったこと、本件においては、納税者側から合計約四億八千万円余にのぼる莫大な謝礼が支払われているが、被告人には直接渡らず、小島から合計で二、三百万円が支払われたにすぎないこと、被告人は当公判廷においては深い反省の態度を示していることなどの事情も認められるので、これらをも総合考慮のうえ、被告人を主文の刑に処するのを相当と思料した次第である。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 上田耕生 裁判官 秋田敬 裁判官 坂本宗一)
別表(一)
<省略>
別表(二)
<省略>